大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成4年(ワ)19186号 判決

主文

一  被告らは連帯して、原告小澤和子に対し六〇三万〇四八四円、同小澤和英、同小澤政文に対し各四一〇万五〇二八円及びこれらに対する平成四年二月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告らの、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

理由

第一  請求

被告らは、連帯して、原告小澤和子(以下「原告和子」という。)に対し三三九二万七四七五円、同小澤和英(以下「原告和英」という。)及び同小澤政文(以下「原告政文」という。)に対しそれぞれ一四八四万七七七九円並びにこれらに対する平成四年二月一九日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告水口めぐみ(以下「被告水口」という。)の運転する普通貨物自動車(多摩四五ら六七三三号、以下「被告車」という。)が小澤英三郎(以下「英三郎」という。)の搭乗する自転車(以下「被害車」という。)に衝突し、同人が死亡した事故(以下「本件事故」という。)に関し、原告らが、被告水口に対しては民法七〇九条に基づき、被告車の所有者である被告山崎製パン株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  被害者

英三郎は、昭和八年六月一〇日生まれの男子であり、本件事故当時五八歳であつた。同人は、昭和二七年六月三日に東京都水道局の臨時職員に採用され、昭和三一年三月三一日に日本大学二部経済学部を卒業した後、本採用の職員として勤務し、本件事故当時、右水道局南部第一支所で経理係長として勤務しており、年額九七七万二九七二円の給与を得ていた。(争いのない事実)

2  本件事故の発生

被告水口は、平成四年二月一九日午前一一時ころ、東京都東村山市恩多町一丁目四番地先の小平方面から恩多方面に通じる市道(車道幅員四・一メートルで歩車道の区別はない。)と青葉町方面から新青梅街道へ通じる道路(車道幅員六・一メートルで歩車道の区別はない。)とが交差する交通整理の行われていない変則五叉路の交差点(以下「本件交差点」という。)において被告車を被害車に衝突させ、英三郎が、脳挫傷の傷害を負い、公立昭和病院(以下「昭和病院」という。)で血腫除去術・減圧開頭術を受けたが、同月二五日に死亡した。英三郎は右青葉町方面から新青梅街道へ通じる道路を青葉町方面から進行してきたところ、英三郎か進行してきた道路には、本件交差点手前にオーバーハング式の一時停止標識が設置され、かつ、停止線も路上に白色ペイントの実線で鮮明に標示されていた。他方、被告車は小平方面から恩多方面へ通じる道路を小平方面から進行してきたところ、被告車が進行してきた道路には、本件交差点手前に一時停止の標識が設置されていなかつた。右各道路において最高速度は時速三〇キロメートルに規制されている。(争いのない事実)

3  被告らの責任原因

(一) 被告会社は、被告車を所有し、自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条に基づく損害賠償責任がある。(争いのない事実)

(二) 被告水口は、本件交差点を小平方面から恩多方面に向かい進行するにあたり、道幅も狭く、走行道路が急カーブを描いており、本件交差点の右方道路の見通しが困難であつたから、徐行して右方道路の交通の安全を確認すべき注意義務があつたのに、これを怠り、徐行せずに右方道路の交通の安全を確認しないまま進行した過失により本件事故を発生させたので、民法七〇九条に基づく損害賠償責任がある。(争いのない事実)

4  損害の填補

原告らは、被告会社の任意保険会社である日本火災海上保険株式会社から英三郎の治療費一一万九九二〇円、同被告の自賠責保険会社である安田火災海上保険株式会社から同人の逸失利益、慰謝料等三〇〇〇万円、死体検案書代等の文書料二万七八七〇円の合計三〇〇二万七八七〇円の支払いを受け、右文書料は原告和子が、右逸失利益、慰謝料等は、法定相続分に応じて、同原告が一五〇〇万円、原告和英及び同政文が各七五〇万円宛をそれぞれ受領した。(争いのない事実)

5  相続

原告和子は英三郎の妻、同和英は同人の長男、同政文は同人の次男であるところ、他に相続人はいないので、原告らは同人に発生した損害につき、それぞれ法定相続分に従い、原告和子が二分の一、同和英及び同政文が各四分の一宛相続した。

二  争点

事故の態様(過失相殺)並びに損害の発生及び額である。

1  事故態様(過失相殺)

(一) 原告ら

英三郎が被害車に搭乗して本件交差点に先入して通過中、被告水口は、被告車を運転し、同人の進行方向の左方から前方不注意及び速度違反により被告車を進行させて被害車の側面に激突させた。本件事故現場は、住宅地で人の通行も多く、道幅が比較的狭い(英三郎の進行道路の方が幅員が広かつた。)五叉路であるところ、被告水口は、何回も本件事故現場を通行しており、十分注意して走行しなければ危険であることを熟知していたのであるから、徐行して右方の安全を十分確認しながら走行すべき注意義務があつたのに、これを怠り、減速せずに本件交差点に漫然と進入した。しかも、同被告は、道路に設置してある二つのカーブミラーのうちの一つによつて、本件交差点のかなり手前のところから英三郎が走行しているのを十分確認できたから、右カーブミラーによつて右方の安全確認をすべき義務があつたのに、これも怠つた。同被告には、右方の安全確認を全く怠つた著しい前方不注視の過失がある。

また、被告車のフロントガラスは、英三郎の頭部が衝突したため、蜘蛛の巣状に破損し、同車の屋根の前部が激しく凹んでいることからして、同車が時速三〇キロメートルを大きく超える相当なスピードで走行していたとみられる。

本件では、過失相殺がなされるべきではなく、仮に英三郎に過失があつたとしても、同人の過失割合は一〇パーセント以下である。

(二) 被告ら

英三郎は、青葉町方面から新青梅街道方面に進行するにあたり、本件交差点が交通整理の行われていない見通しの悪い交差点であり、本件交差点手前に一時停止の標識が設置されていたのであるから、いつたん一時停止した後、左右の安全を確認して本件交差点を進行すべき注意義務があつたにもかかわらず、これを怠つたため、本件事故が発生した。この点、被害者側の過失として、被告水口が、右方の安全確認を全くしていなかつたとか、制限速度を超える時速三〇キロメートル以上で運転していたとの事実もなかつた本件においては、大幅な過失相殺がなされるべきである。

2  損害の発生及び額

(一) 原告ら

(1) 英三郎の損害

〈1〉 治療費 一一万九九二〇円

〈2〉 付添看護費 三万五〇〇〇円

英三郎は、本件事故発生の日である平成四年二月一九日から同月二五日までの七日間、昭和病院に入院したが、同人の症状が脳挫傷など極めて重篤であつたため、原告らは右入院期間中付添看護した。この付添看護費は一日当たり五〇〇〇円が相当である。

〈3〉 入院雑費 八四〇〇円

一日当たり一二〇〇円として七日分の合計である。

〈4〉 逸失利益 五五一二万七七一九円

英三郎が本件事故に遭わなければ、同人は、死亡した日の翌日である平成四年二月二六日から定年退職日(満六〇歳時)である平成六年三月三一日までの二年と三四日間、右水道局職員として、東京都公営企業職員の給与の種類及び基準に関する条例一九条、東京都水道局職員の給与に関する規程に従つて、年間九七七万二九七二円の給与を支給されたはずであるから、同人の右死亡日の翌月である平成四年三月から定年退職時である平成六年三月までの二五か月間に得られたはずである給与額を請求する。なお、本件事故時において、原告和英及び同政文はともに大学在学中であり、同和子とともに英三郎の被扶養者であつたが、同和英は平成五年三月に大学を卒業して大学院に進み、同政文は平成六年三月に大学を卒業して就職した。

また、英三郎は、右退職後も、満六七歳に至るまでの六年間にわたり民間企業に勤務し、満六一歳から満六五歳に至るまでの四年間につき賃金センサス産業計・企業規模計・大卒男子労働者六〇歳から六五歳の平均賃金、満六五歳から満六七歳に至るまでの二年間につき同六五歳以上の平均賃金を得られたはずである。

年金の逸失利益性について最判平成五年三月二四日民集四七巻四号三〇三九頁は、地方公務員等共済組合法に基づく退職年金の逸失利益性を肯定するとともに、その相続人が受給していた遺族年金につき、現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続又は履行が確実であるということができる場合に限つて損害額から控除すべきであると判示している。したがつて、英三郎は、本件事故に遭わなければ、地方公務員等共済組合法(以下「共済組合法」という。)七八条及び同法附則一九条一項により、右退職時から五八歳男子の平均余命七九・六九歳(便宜上七九歳までとする。)に至るまで、右退職後満六五歳に至るまでの四年間につき特例による退職共済年金、満六五歳以降右平均余命に至るまでの一四年間につき右年金及び老齢基礎年金をそれぞれ年額三〇七万三一〇〇円受給できたはずである。ただし、右退職後満六七歳に至るまでの間は、民間企業の賃金分の収入があると仮定することにより、右年金額の一部の支給が一時停止される。

なお、原告和子が既に受給した平成四年三月分から平成六年六月分及び受給が確定している同年七月分までの公務員外遺族共済年金合計四三二万五九〇九円は右逸失利益から控除すべきであるが、英三郎が支払うべきであつた右共済組合への掛金は控除すべきではないし、右退職年金については生活費を控除すべきではない。

以上の計算方法は別紙仮定給与・年金表記載のとおりである。

〈5〉 慰謝料 二六一五万円

内訳は、入院慰謝料一五万円と死亡慰謝料二六〇〇万円である。

(2) 原告らの損害

〈1〉 固有の慰謝料 各二〇〇万円

〈2〉 葬儀費用等 三二〇万四〇五六円

原告和子が英三郎の葬儀費用、納骨費を支出した。

〈3〉 文書料 五万五七三〇円

原告和子が自賠責保険の被害者請求及び本件訴訟に備えるために支出した。

〈4〉 弁護士費用 三〇〇万円

右弁護士費用は、すべて原告和子が支払うこととした。

(二) 被告ら

右事実は不知ないし争う。

英三郎の死亡時から定年退職すべかりし時までの賃金分については、同人の定年退職日は満六〇歳に達した平成五年六月一〇日とすべきであるほか、原告和英及び同政文が既に成年に達しているから、生活費控除率は四〇パーセントとすべきである。

また、定年退職後の再就職は確実性が乏しく、仮に再就職による収入があるとしても、本人の生活費を差し引いて、なお、余剰があるとみることは困難である。

さらに、共済組合法の規定による退職共済年金等は、本人及びその家族が本人退職後における一定の生活を生活水準を維持し得るために給付される生活補償と理解すべきもので、被害者の稼働能力を表象するものではないから、被害者の得べかりし利益として、その賠償を請求することができないものである(前記最判の藤島昭裁判官の反対意見)。

少なくとも六七歳に達するまでに期間は、賃金センサスによる逸失利益を主張しているので、この期間に年金についての逸失利益性を認めることは二重取りになつて不当である。

また、遺族年金については、被害者と同性同年齢の者の平均余命期間に支給を受ける部分を損益相殺として控除すべきである。

第三  争点に対する判断

一  事故態様(過失相殺)

1  証拠(甲七の2ないし13、八ないし一〇、一五の1ないし4、一六の1ないし6、一七の1ないし8、二三の1、2、乙一ないし三、被告水口本人)によれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件交差点は別紙現場見取図(以下「別紙見取図」という。)記載のとおりの変則五叉路の交差点で住宅街にあり、本件交差点付近の道路状況につき、被告車が進行してきた小平方面から恩多方面へ通じる道路(以下「被告車の進行道路」という。)及び英三郎が進行してきた青葉町方面から新青梅街道へ通じる道路(以下「英三郎の進行道路」という。)は、直線で(ただし、被告車の進行道路の小平方面側本件交差点手前には、曲率の大きな左カーブがある。)、路面がアスファルト舗装された平坦な道路であり、中央分離帯はない。被告車の進行道路の幅員は、四・一メートルで、道路両側に路側帯(幅員各〇・八メートル)が実線で白色ペイントで鮮明に表示され、別紙見取図〈記号略〉記載の位置にある電柱の下部には、被告車の進行方向から見えるように「危険子供飛び出し」と記載された看板が置かれている。英三郎の進行道路は若干下り勾配になつており、同人の進行道路には、道路両側に左側一・五メートル、右側一・一メートルの各路側帯が白色ペイントの実線で鮮明に標示され、本件交差点手前の路面には、停止線が標示されているほか、その停止線の手前に「止まれ」と記載され、終日駐車禁止の規制がなされている。本件事故当時、天候は晴天であり、本件交差点付近の路面は乾燥していた。

本件交差点付近の見通し状況は、被告車の進行方向からみて、前方については、良好であり、見通しを妨げるものはなく、前方約七〇メートルにある障害物が視認できるが、右方については、民家及び高さ一メートルのブロック塀などが存在しているため、不良であり、本件交差点前手約一五メートルの位置(〈P〉地点)から直接視認できるのは本件交差点の右方手前〇・二メートルまでであり、本件事故当時に本件見取図記載の位置に設置されていたカーブミラー(以下「本件カーブミラー」という。)一個(なお、写真には、右位置に二個のカーブミラーが設置されているのが写つているが、被告車の進行方向からみて手前のものは、実況見分調書添付の写真等によると、本件事故後に設置されたものであると認められる。)を通して、本件交差点の右方手前の別紙見取図記載〈P〉3の地点まで一六・一メートル、同見取図記載〈P〉2の地点まで三・五メートルの範囲の障害物が視認できる。他方、英三郎の進行方向からみて、左方の見通しは不良である。

(二) 被告水口は、被告車を運転し、所沢及び狭山地区の販売店回りをするため、被告車の進行道路を小平方面から恩多街道方面に向かい時速約三〇キロメートルの速度で進行していたが、本件交差点手前に前記左カーブがあつたため、本件交差点付近を時速二〇ないし二五キロメートルに減速して進行してきた。同被告は、被告車と被害車とが衝突した別紙見取図×記載の地点(以下「本件衝突地点」という。)の約一五メートル手前である右見取図記載〈1〉の地点にさしかかつた際、本件交差点の右方の見通しが悪かつたため前記カーブミラーの方に目をやつたが、何も映つていないように見えたので、そのまま減速せずに進行し、被告車の進行道路の右側端から約一・七メートルの位置である本件衝突地点において、英三郎の進行道路をその左側端から約一・六メートル離れて青葉町方面から新青梅街道方面へ向かつて進行して本件交差点に進入してきた被害車の左側中央部分付近に被告車の右前部を衝突させた。被告水口は、本件衝突地点の約三・五メートル手前の別紙見取図記載〈2〉の地点で右カーブミラーから前方に目を向けたが、右衝突まで被害車が本件交差点に進入してきたことに気づかず、右衝突とほぼ同時に被害車が本件交差点に進入してきたことに気がついたが、何らの措置を採る間もなく、被告車を被害車に衝突させたものであつた。被告水口は、右衝突の際、直ちに急ブレーキをかけ、被告車を本件衝突地点から九・六メートル前方の本件見取図記載〈4〉の地点に停止させたが、英三郎を本件衝突地点から一〇・二メートル離れた同見取図〈イ〉記載の地点、被害車を被告車の右停止位置の右斜め後方約二、三メートルの地点(実況見分調書添付の事故現場見取図には、本件衝突地点から一一・三メートル離れた同見取図〈ウ〉記載の地点に転倒していたとの記載があるが、警察官が本件事故現場に臨場する前に、通行の邪魔になるため、第三者によつて右〈ウ〉地点に移動させたものであると認める。)にそれぞれ転倒させた。右衝突の際、英三郎は、被告車のボンネット上にはねあげられ、左側頭部を同車右側のフロントガラス及び屋根部分に強打し、頭蓋骨骨打、脳挫傷、頭蓋内出血、肋骨骨打、血気胸等の傷害(以下「本件傷害」という。)を負つた。

被告水口は、本件事故当時、本件交差点付近の交通量が少なく、前方に車両、自転車、歩行者等がいなかつたこと、本件交差点には、「危険子供飛び出し」と記載された看板が設置されていたことを知つていたにもかかわらず、今までに本件交差点を何回も通つた際、何もなかつたため、危険な交差点であるとは考えていなかつたこと、及び右カーブミラーを見た時、本件交差点の右方道路から進行してくる自動車、自転車等が何も映つていないように見え、何も来ないと思つたことから、大丈夫であると油断していた。

(三) 被告車は車長四・四六メートル、車幅一・六九メートル及び車高一・四八メートルであり、車両前部先端から運転席まで二・一メートルである。同車には、右前バンパーに擦過痕があり、前ナンバープレートが曲損し、その地上高〇・四メートル及び〇・五メートルの位置に接触痕があつた。また、右前ウィンカーの地上高〇・六五メートルの位置が破損し、右前フェンダーには、右角の地上高〇・七メートルの位置に長さ〇・〇六メートル及び幅〇・〇六メートルの凹損痕、前部先端から〇・三メートル、地上高〇・六八メートルの位置に縦〇・〇三メートル及び横〇・〇六メートルの衝突痕があつたほか、幅〇・五〇メートル及び縦〇・二一メートルの凹損痕があり、右サイドミラーが欠損し、その後ろの地上高〇・八一メートルの位置から運転席に向かつて長さ〇・四メートルの皮膜痕があつた。さらに、フロントガラスの運転席側が縦横いずれも〇・八三メートルの範囲にわたり蜘蛛の巣状に破損し、屋根右前部分の運転席側には、運転席側から助手席側に向かつて長さ〇・五八メートル及び幅〇・二二メートルの範囲にわたる凹損痕があべたほか、フロントウィンドピラーの地上高〇・九メートルから同一・一メートルの位置に屋根方向への黒色の皮膜痕があつた。

他方、被害車の破損状況は、前かご及び前照灯が破損し、前輪、車体及び左ペダルが曲損していた。

2  前記争いのない事実及び右認定の事実によれば、次のとおり考えることができる。

被告水口には、本件交差点を小平方面から恩多方面に向かつて進行するに当たり、道路幅員が狭く、本件交差点の右方道路の見通しが困難であつたから、徐行して右方道路の交通の安全を確認すべき注意義務があつたのに、これを怠り、徐行せずに右方道路の交通の安全を確認しないまま進行した過失があるので、民法七〇九条に基づく損害賠償責任があることは、当事者間に争いがないところ、同被告の右過失は決して軽微なものであつたということはできず、本件事故の主たる原因は、同被告の右過失に存したものといわざるを得ない。すなわち、本件交差点の付近は、市街地であり、道路の幅員が狭いだけではなく、同被告の進行方向から本件交差点の右方の安全を確認することは極めて困難な状況にあり、しかも、「危険子供飛び出し」との看板が設置されているのを同被告も認識していたのであるから、同被告にとつて、本件交差点の右方道路から自転車、歩行者等が自己の進路上に飛び出してくることも容易に予測できたはずである。ところが、同被告は、〈1〉本件事故当時、本件交差点付近の交通量が少なく、前方に車両、自転車、歩行者等がいなかつたこと、〈2〉今までに本件交差点付近を何回も通つた際に何もなかつたため、本件交差点を危険な交差点であるとは考えていなかつたこと、及び〈3〉同被告が右カーブミラーを見た時、本件交差点の右方道路から進行してくる自動車、自転車等が何も映つていないように見え、何も来ないと思つたことから、安易に大丈夫であると油断し、本件交差点の手前において減速徐行して十分に右方の安全を確認しつつ走行すべき義務があつたのに、これを怠つたのみならず、前記カーブミラーを十分に注視していれば、被害車が右方道路から進行してくるのを衝突前に発見し得たはずであると考えられるところ、同被告が右カーブミラーには何も映つていなかつたのを確認したと供述するのは、右カーブミラーによる安全の確認を十分に行つていなかつたことを推認させるものである。そうすると、被告水口の右過失は、本件交差点に進入しようとする運転者にとつて要求される前方等の注視義務に違反したものであるといわざるを得ない。

ところで、原告らは、英三郎が頭部をフロントガラスに打ちつけているところ、それは時速四〇キロメートル以上の場合でなければあり得ないから(江守一郎著「実用自動車工学」、同「新版自動車事故工学」(甲二二)、被告水口が、本件交差点に進入するに際し、制限速度を大幅に超過する時速四〇キロメートル以上の速度で進行していたと主張するが、〈1〉原告らの右主張に沿う文献の記載部分は、四輪車が停止したオートバイ等の車両又は歩行者の真横から衝突した場合の実験結果等に基づくものであるところ、本件では、それらよりも被害者の重心が高位にある自転車の事故であり、また、本件交差点の道路状況からすると、被害車が被告車の進行方向のやや右斜め前方から進行してきて衝突する事故態様であつたとみられることから、被告車の進行速度のほか被害車の進行速度も考慮すべきであり、右記載部分をそのまま本件に当てはめることができるか疑問があること(ちなみに、甲二二によれば、時速二五キロメートル以上で走行する乗用車が自転車の後部から追突した場合、自転車の乗員の頭部はフロントガラスに衝突することが認められる。)、〈2〉衝突後の被告車の停止位置と本件衝突地点との距離関係からして、被告車が時速四〇キロメートル以上の速度で進行していたとすると、右停止位置で停止するのは困難であると考えられること、〈3〉被告車及び被害車の破損状況、特に被害車の破損状況が大破であるとまではいえないこと、〈4〉被告車の進行道路の本件交差点手前には前記認定のとおりカーブが存在し、かつ、道路幅員が狭かつたから、被告車が右カーブを曲がるためにいつたん減速する必要があつたと認められることなどを総合すると、被告車が、本件交差点に進入するに際し、前認定の速度以上の速度で進行していたと推認することはできず、他に、被告車の速度が右速度を超えていたことを窺わせるに足りる証拠もなく、原告らの右主張は理由がない。

他方、英三郎が、本件交差点手前において、一時停止して左右の安全を十分に確認していたならば、被告車の本件交差点への接近に気づかなかつたということは考え難く、同人には一時停止したうえ左右の安全を確認すべきであつたのに、これを怠り(前記停止線の位置でいつたん停止したとしても、本件交差点進入直前において、被告車の進行道路の左方安全確認を怠つたことは否定できない。)、漫然と本件交差点に進入した過失があると認められる。また、本件衝突地点の位置からすると、被害車が本件交差点に明らかに先入したと認めることは困難であり、他に、被害車の本件交差点への明らかな先入を認めるに足りる証拠もないほか、英三郎の進行道路が明らかに幅員の広い道路であつたということもできない。

そうすると、被告水口と英三郎との過失割合は、前者が七割、後者が三割であると認めるのが相当である。

二  損害の発生及び損害額

1  英三郎の損害

(一) 治療費 一一万九九二〇円

証拠(甲九、二三の1,2)及び弁論の全趣旨によれば、英三郎は、本件傷害を受け、平成四年二月一九日、昭和病院に救急車で搬入され、同月二五日に脳挫傷により死亡するまでの七日間にわたり、血腫除去術・減圧開頭術を受けるなど入院治療を受け、その治療費として一一万九九二〇円を要したことが認められ、右治療費は、本件事故と相当因果関係がある損害と認めるのが相当である。

(二) 付添看護費 三万五〇〇〇円

証拠(甲七の9、九、二三の1、2)及び弁論の全趣旨によれば、英三郎は、昭和病院において、初診時から脳挫傷等による意識障害があり、その後、集中治療室に入院したまま平成四年二月二五日に死亡したこと、原告らが右入院期間中付添看護したことが認められ、同人の症状が重篤なものであつたことからすると、右付添看護は必要かつ相当なものであり、右入院期間中の近親者付添看護費を一日当たり五〇〇〇円、合計三万五〇〇〇円と認めるのが相当であるところ、右付添看護費は、本件事故と相当因果関係がある損害と認めるのが相当である。

(三) 入院雑費 八四〇〇円

前記認定の英三郎の治療経過によれば、同人は、前記入院期間七日間につき、一日当たり一二〇〇円、合計八四〇〇円を下らない額を負担したものと認めるべきであるから、右入院雑費は、本件事故と相当因果関係がある損害と認めるのが相当である。

(四) 逸失利益 四二一七万二四四二円

(1) 定年退職日までの賃金分

前記争いのない事実のとおり、英三郎は、昭和八年六月一〇日生まれの男子で、本件事故当時、満五八歳であり、昭和二七年六月三日に東京都水道局の臨時職員に採用され、昭和三一年三月三一日に日本大学二部経済学部を卒業した後、本採用の職員となり、本件事故当時、東京都大田区大森所在の右水道局南部第一支所経理係長として勤務し、年額九七七万二九七二円の給与を得ていたところ、証拠(甲一三、一四)によれば、英三郎が本件事故に遭わなければ、同人は、死亡した日の翌日である平成四年二月二六日から定年退職日(満六〇歳時)である平成六年三月三一日までの二年と三四日間、右水道局職員として勤務し、右期間分の給与を得られたはずであることが認められる。また、甲二四によれば、英三郎の平成三年における東京都職員共済組合(以下「共済組合」という。)長期掛金の総額が四四万四四九五円であつたことが認められるところ、後記地方公務員退職年金及び老齢基礎年金について逸失利益性を認めるのが相当であるが、他方、英三郎は、本件事故によつて死亡したことにより、同人が右退職時まで負担しなければならなかつたはずである右共済組合長期掛金の支出を免れるから、同人が本件事故によつて支出を免れた生活費と同様、同人が負担すべきであつた右共済組合長期掛金につき、これを同人の年収額から控除するのが相当である。なお、証拠(甲七の9、二八の1ないし3)によれば、本件事故当時、原告和英及び同政文はともに大学在学中であり、同和英は平成五年三月に大学を卒業して大学院に進み、同政文は平成六年三月に大学を卒業して就職したことが認められるから、本件事故当時において、原告和英及び同政文が同和子とともに英三郎の被扶養者であつただけではなく、英三郎の右定年退職すべかりし時点においても、原告和英は同和子とともに英三郎の被扶養者であつたと認めるのが相当である。

そうすると、本件事故当時における同人の年収額を基礎に、これから右共済組合長期掛金及び三割の生活費を控除したうえ、ライプニッツ方式により年五分の中間利息を控除して、英三郎の定年退職すべかりし時までの逸失利益の現価を計算すると、次の計算式のとおり一二六六万六七六五円となる。

(計算式)(九七七万二九七二円-四四万四四九五円)×(一-〇・三)×(一・八五九四+〇・〇八〇四)=一二六六万六七六五円

(2) 定年退職日の翌日から満六七歳までの賃金分

弁論の全趣旨によれば、英三郎は、本件事故に遭わなければ、東京都水道局の定年退職時においても、勤労意欲を有し、稼働可能な状態にあり、右水道局を定年退職した後も、右退職日の翌日である平成六年四月一日から満六七歳に至るまでの六年と七〇日間にわたり、民間企業に就労し得たはずであるというべきであるから、英三郎の右期間における賃金分の逸失利益は、右定年退職日の翌日から満六五歳に至るまでの四年と七〇日間につき、賃金センサス第一巻第一表による平成四年男子労働者大卒六〇歳ないし六四歳の平均年収額七一九万七六〇〇円、満六五歳から満六七歳に至るまでの二年間につき、同六五歳以上の平均年収額七〇五万四九〇〇円をもとに算定するのが相当であると思料される。なお、前記認定のとおり、英三郎の定年退職時における被扶養者は、原告和子及び同和英の二名であるが、生活費控除率については、原告が自認する四割とすることとする。

そうすると、右各金額を基礎に、生活費を控除したうえ、ライプニッツ方式により年五分の中間利息を控除して、英三郎の定年退職日の翌日から満六七歳に至るまでの賃金分の逸失利益の現価を計算すると、次の計算式のとおり一九五三万七一六四円(円未満切り捨て)となる。

(計算式)七一九万七六〇〇円×(一-〇・四)×(〇・一六五六+五・七八六三-二・七二三二)+七〇五万四九〇〇円×(一-〇・四)×(七・一〇七八-五・七八六三)=一九五三万七一六四円

(3) 定年退職後から満六五歳に至るまでの年金分

証拠(甲一三の1、2、一四、二五、二九、三〇)及び弁論の全趣旨によれば、共済組合法二条一項一号、同法施行令二条によつて、常時勤務に服することを要する地方公務員は、地方公務員共済組合の組合員となり、同法三九条二項によつて、死亡した場合には右組合員の資格を喪失すること、右組合員期間等が二五年以上である者(共済組合法等の一部を改正する法律(昭和六〇年法律第一〇八号)附則一三条一項、三項、同附則別表第一により、受給資格期間の特例が定められ、昭和二七年四月一日以前に生まれた者については、右期間が二〇年以上であるときには、右期間等が二五年以上である者とみなすこととされている。)が六〇歳に達した日以後に退職したとき等には、共済組合法七八条及び同法附則一九条一項によつて、その者が六五歳に達するまで地方公務員の特例による退職共済年金を支給されること、共済組合法八二条、九三条、同法附則二一条一項、二六条八項、同法施行令二五条の七によつて、右退職共済年金の受給権者が厚生年金保険の被保険者等他の公的年金制度の被保険者等になつた場合には、その者が当該厚生年金保険の被保険者等である間、その超える年の翌年八月から翌々年七月までの分としてその者に支給される年金額の一部、すなわち、厚生年金相当部分の額にその者の給与所得に応じて政令で定める停止率を乗じて得た額の支給が停止されること、右所得金額(給与所得の全額から所得控除の金額を控除した金額)が二一〇万円を超える場合には、四五万円に所得金額から二一〇万円を差し引いたものを加えたものを所得金額で除したものが右停止率とされる(ただし、支給停止の緩和率として、平成六年四月から同年七月までの分として支給される年金については、そのうち八〇パーセント、同年八月から平成七年七月までの分として支給される年金については、そのうち九〇パーセントである。)こと、英三郎は、本件事故に遭わなければ、東京都水道局を平成六年三月三一日に定年退職し、特例による退職共済年金額として、同年四月から物価スライド制による年額三〇七万三一〇〇円(うち厚生年金相当部分は一七四万二一一二円で、その他は一三三万〇九八〇円である。)を支給されたはずであつたこと、英三郎が過去に支給された退職一時金四三万八七五〇円は、右年金支給額から差し引かれるかたちで右共済組合に返還する必要があることが認められる。そして、前示最判平成五年三月二四日は、共済組合法の退職年金について、その逸失利益性を肯定し、最判平成五年九月二一日判時一四七六号一二〇頁は、国民年金(老齢年金)の逸失利益性を肯定しているところ、英三郎は在職中であつて、未だ退職共済年金を受給していなかつたものの、英三郎は、本件事故当時、満五八歳で、本採用の職員として二〇年以上勤務しており、右共済組合員として右年金の受給資格を取得していたことは明らかであつて、二年後に定年退職したときには、平成六年四月から右年金の支給を受けたはずであつたから、右年金については、逸失利益性を認めるのが相当である。なお、退職年金といえども、これによつて受給権者及びその家族の生計の維持が予定されていることに鑑みれば、死亡により支出を免れた生活費を控除するのが相当であるところ、英三郎が満六七歳に達するまでは、前記のとおり民間企業に就労し得たとして給与の支給を受けたはずであるとするから、その間に支給されるはずである年金と右給与につき、共通の四割の生活費控除を行うのが相当である。

そうすると、右支給予定額を基礎に、これから前記六〇歳から六四歳までの平均年収額七一九万七六〇〇円及び右金額より基礎控除三五万円、配偶者控除三五万円、配偶者特別控除三五万円に給与所得控除をした後の所得金額である四三三万二八四〇円をもとに算定した年金の支給停止部分を差し引き(原告らは、厚生年金相当部分だけでなく年金全額に停止率を乗じて支給停止額を算定するとともに、右支給停止の緩和率を考慮しない計算を以て主張し、また、緩和率が適用されるのが一年程度であることから、この点は原告らの計算方法に従う。)、返還が予定されている右退職一時金及び生活費を控除したうえ、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、英三郎の定年退職日の翌月から満六五歳に至るまでの年金分の逸失利益の現価を計算すると、次の計算式のとおり一九八万九一〇八円(円未満切り捨て)となる。

(計算式)〈1〉停止率[四五万円+(四三三万二八四〇円-二一〇万円)]÷四三三万二八四〇円=〇・六一九一(小数点第五位以下切り捨て)

〈2〉年間支給額 三〇七万三一〇〇円×(一-〇・六一九一)=一一七万〇五四三円(円未満切り捨て)

〈3〉現価計算{一一七万〇五四三円×(〇・一四三九+五・七八六三-二・七二三二)-四三万八七五〇円}×(一-〇・四)=一九八万九一〇八円

なお、被告は、満六七歳に達するまでは賃金分の逸失利益を資金センサスを基礎に算定していることから、年金分の逸失利益を認めることは二重取りになると主張するが、前判示のとおり、年金につき支給停止分を差し引いた分のみ逸失利益を認めることから二重取りにならず、被告の右主張には理由がない。

(4) 満六五歳から平均余命に至るまでの年金分

証拠(甲一三の1、2、一四、二五、二九、三〇)及び弁論の全趣旨によれば、地方公務員共済組合の組合員期間等が二五年以上である者が、退職後に組合員になることなくして六五歳に達したとき等には、共済組合法七八条一項、八三条によつて、その者が死亡するまで地方公務員の退職共済年金を支給されること、国民年金法一八条、二九条、国民年金法等の一部を改正する法律(昭和六〇年法律第三四号)附則一二条一項によつて、昭和二七年四月一日以前に生まれた者は、被用者年金各法の加入期間が二〇年以上あれば、六五歳に達した日の属する月の翌月から、死亡した日の属する月まで、右退職共済年金に併せて老齢基礎年金を支給されること、共済組合法八二条、九三条、同法(昭和六〇年法律第一〇八号)附則二一条一項、二六条八項、同法施行令二五条の七によつて、前記(3)と同じような厚生年金相当部分の額にその者の給与所得に応じて政令で定める停止率を乗じて得た額の支給が停止されること、英三郎は、本件事故に遭わなければ、東京都水道局を平成六年三月三一日に定年退職し、特例による退職共済年金として、右退職日の翌日から物価スライド制による年額三〇七万三一〇〇円を支給されたはずであつたのは前記認定のとおりであるところ、満六五歳からは右退職共済年金を共済組合、老齢基礎年金を国民年金基金からそれぞれ支給されるが、その合計額は従前と変わらないことが認められる。そして、前判示のとおり、英三郎は、本採用の職員として二〇年以上勤務していたことが窺われ、右共済組合員として右退職年金及び老齢基礎年金の受給資格を取得し、又は取得し得べきものであつたことは明らかであり、定年退職後、満六五歳に達したときには、死亡時までに右退職共済年金及び老齢基礎年金の支給を受けたはずであつたから、右退職共済年金及び老齢基礎年金については逸失利益性を認めるのが相当であるというべきであるところ、英三郎は本件事故当時満五八歳の男子で、平成四年簡易生命表による平均余命が二一・六七年であることは当裁判所に顕著な事実である(ただし、右年金支給期間については、原告が自認する満七九歳に至るまでとして算定する。)。なお、右退職年金及び老齢基礎年金といえども、これによつて受給権者及びその家族の生計の維持が予定されていることに鑑みれば、これらから死亡により支出を免れた生活費を控除するのが相当であるところ、英三郎の収入が右退職年金及び老齢基礎年金のみとなる満六七歳以降については、右年金支給額に占める生活費の割合が従前に比して増加することが十分に予想できるから、生活費控除率は、これを六割とするのが相当である。

そうすると、満六五歳から満六七歳に至るまでの二年間については平均年収七〇五万四九〇〇円及び右金額より基礎控除三五万円、配偶者控除三五万円、配偶者特別控除三五万円に給与所得控除をした後の所得金額である四二〇万四四一〇円から前記六五歳以上の平均年収額をもとに算定した支給停止部分を差し引いた額、満六七歳以降については右年金支給予定額をそれぞれ基礎に、生活費の控除を行つたうえ、ライプニッツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して、英三郎の満六五歳から平均余命である満七九歳に至るまでの年金分の逸失利益の現価を計算すると、次の計算式のとおり、七九七万九四〇五円(円未満切り捨て)となる。

(計算式)〈1〉停止率[四五万円+(四二〇万四四一〇円-二一〇万円)]÷四二〇万四四一〇円=〇・六〇七五(小数点第五位以下切り捨て)

〈2〉満六五歳から六七歳までの年間支給額三〇七万三一〇〇円×(一-〇・六〇七五)=一二〇万六一九一円(円未満切り捨て)

〈3〉現価計算 一二〇万六一九一円×(一-〇・四)×(七・一〇七八-五・七八六三)+三〇七万三一〇〇円×(一-〇・六)×(一二・八二一一-七・一〇七八)=七九七万九四〇五円

以上(1)ないし(4)を合計すると、逸失利益は四二一七万二四四二円となる。

(五) 慰謝料 二〇一五万円

英三郎は、本件事故により、本件傷害を受け、死亡したことにより精神的苦痛を被つたことが認められるところ、本件傷害の部位・程度、入院期間、本件事故の態様等本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件事故により同人が被つた精神的苦痛に対する慰謝料は、傷害分一五万円、死亡分二〇〇〇万円と認めるのが相当である。

2  原告らの損害

(一) 原告らの固有の慰謝料 原告和子二〇〇万円、同和英、同政文各一〇〇万円

原告らは、英三郎が本件事故によつて死亡したことにより精神的苦痛を被つたことが認められるところ、本件事故の態様等本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件事故により原告和子が被つた精神的苦痛に対する慰謝料は二〇〇万円、同和英、同政文については、各一〇〇万円と認めるのが相当である。

(二) 葬儀費用 一二〇万円

甲六の1ないし11によれば、原告和子は、英三郎の葬儀費用を支出し、一二〇万円を下らない費用を要したことが認められ、右事実及び本件に顕れた一切の事情によれば、本件事故と相当因果関係がある葬儀費用は一二〇万円と認めるのが相当である。

(三) 文書料 五万五七三〇円

弁論の全趣旨によれば、原告和子は、自賠責保険の被害者請求及び本件訴訟に備え、診断書、戸籍謄本、印鑑証明書、事故証明書等の文書料として合計五万五七三〇円を支出したことが認められ、右文書料は、本件事故と相当因果関係がある損害と認めるのが相当である。

三  損害の填補

前記認定、判断した英三郎に生じた損害額の合計は、六二四八万五七六二円となるところ、これに三割の過失相殺を行つた後、前記争いのない事実のとおり任意保険から英三郎の治療費として一一万九九二〇円が直接昭和病院に支払われているから、これを損害填補した後の英三郎の総損害残額は、四三六二万〇一一三円(円未満切り捨て)となる。原告らは、右総損害残額を原告和子が二分の一あて、同和英、同政文が各四分の一あて相続するから、これに原告ら固有の慰謝料、葬儀費用及び文書料につき三割の過失相殺を行つたものを含めた、後記自賠責保険支払分の損害填補前における、原告和子の損害合計額は二四〇八万九〇六七円、同和英、同政文の損害合計額は各一一六〇万五〇二八円となる。そして、前記争いのない事実のとおり、原告らが、自賠責保険から三〇〇二万七八七〇円の支払いを受け、そのうち原告和子が文書料分二万七八七〇円を自己の損害賠償請求権に弁済充当し、その余を相続分に従つて原告らが受領したから、右自賠責保険支払い分の損害填補後における、原告和子の損害残額は九〇六万一一九七円、同和英、同政文の損害残額は各四一〇万五〇二八円となる。遺族年金の控除については、現実に履行された場合又はこれと同視し得る程度にその存続又は履行が確実であるということができる場合に限つて損害額から控除すべきであるところ(前掲最判平成五年三月二四日)、証拠(甲一一、一二、二九)及び弁論の全趣旨によれば、原告和子は、平成四年二月二五日、公務外遺族共済年金の受給資格を認められ、受給額を年額一七三万八三〇〇円とされ、同年四月に年額一七九万六〇〇〇円と改定されたが、共済組合法七五条三項によれば、年金給付を改定する事由が生じたときは、その事由が生じた日の属する月の翌月分からその改定した金額を支給すると定められていること、したがつて、平成四年三月から四月までの二か月間に二八万九七一六円(円未満切り捨て)、同年五月から平成六年六月までの二六か月間に三八九万一三三一円(円未満切り捨て)支給されたほか、同年七月分の一四万九六六六円(円未満切り捨て)につき、本件口頭弁論終結の日である同年七月一四日に受給が確定していたこと、原告和子のみが右遺族共済年金の受給権者であることが認められるから、前掲最判平成五年三月二四日が示す計算方法に従い、同原告が受給し、又は受給することが確定していた右遺族共済年金額の合計四三三万〇七一三円を、右遺族年金の受給権者である原告和子の右損害残額から控除することとする。そうすると、同原告の総損害残額は四七三万〇四八四円となる。

四  弁護士費用 一三〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告和子は、弁護士である原告ら訴訟代理人らに対し、本件訴訟の提起と追行を委任し、その費用及び報酬の全額の支払いを約束したことが認められるところ、本件訴訟の難易度、認容額、審理の経過、その他本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、一三〇万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上によれば、原告らの被告らに対する請求は、原告和子につき六〇三万〇四八四円、同和英、同政文につき各四一〇万五〇二八円及びこれらに対する本件事故の日である平成四年二月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを正当として認容し、その余は理由がないのでいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 南 敏文 裁判官 大工 強 裁判官 湯川浩昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例